放射線の一種の重粒子線を使うがん治療施設を羽田空港に面した川崎市川崎区の「神奈川口」に建設する計画で、事業企画会社「東京ベイ・メディカルフロンティアセンター」(TBMFC、同市川崎区)は6日までに、投資額が比較的少ない陽子線治療施設に変更する検討を始めた。施設を「神奈川口」の中核拠点の一つと位置付けている川崎市は「計画変更の検討は聞いているが、引き続き誘致活動を続ける」としている。
TBMFCによると、重粒子線施設は初期投資が200億円規模と巨額に上る。変更検討について「経済情勢が厳しい中で、事業を展開してから重粒子線を導入したい」と説明。高度放射線治療を待つ患者は多いため、臨床実績が多い陽子線を先行導入することで、事業の着実な推進を優先することにした。
川崎市は陽子線に変更されても、先端産業創出支援制度(イノベート川崎)を活用して誘致を進める考え。誘致を支援してきた川崎商工会議所の西岡浩史会頭は「アジアなど外国から患者の受け入れが可能となるほか、先端研究と人材育成が進む地域に変わるだろう」と期待している。
TBMFCはIHIや富士通などが出資し2006年6月設立。がん治療施設は癌(がん)研究会有明病院、慶応大、順天堂大などが共同利用する計画で、研究開発施設などとともに10年代前半の建設を目指している。
粒子線医療支援機構(同市幸区)によると、重粒子線治療施設は全国約10カ所で計画されている。
県は14年度に県立がんセンター(横浜市旭区)で開始予定。横浜市立大医学部(同市金沢区)に設置を要望している横浜市は近く県と本格協議に入るとしている。
◆重粒子線治療 炭素イオンを加速して患部に照射し、体の奥にあるがん細胞をたたく。周辺の正常細胞へのダメージが少ないとされる。水素イオンを使う陽子線に比べてがん細胞に対する殺傷能力は高い。全国では放射線医学総合研究所(千葉市)、兵庫県立粒子線医療センター、群馬大学大学院医学系研究科医学部の3カ所で実施されている。
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