更年期症状の治療および骨粗鬆(しょう)症の予防に用いられる合成ステロイド薬tibolone(商品名:Livial、日本国内では未承認)に関する大規模研究が、同剤により乳癌(がん)再発リスクが有意に増大することが判明したことから、早期に中止された。
tiboloneは米国では市販されていないが、更年期症状の治療薬として90カ国、骨粗鬆症治療薬として55カ国で承認されており、乳癌患者の多くが、癌治療による早期閉経への影響を緩和するために使用している。女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンに似た作用で更年期症状を軽減するが、一部の癌リスクを低減させる作用もあると考えられていた。
今回の研究では、乳癌手術を受けた女性約3,100人を、tibolone 2.5mg/日投与群またはプラセボ(偽薬)群のいずれかに無作為に割り付けた。研究開始時、被験者は平均52.7歳で、手術後の平均期間は2.7年であった。tibolone投与群1,556人のうち乳癌再発が認められたのは237人(15.2%)であったのに対し、プラセボ群では1,542人中165人(10.7%)であり、tibolone群の再発リスクが40%高いことが判明。また、tibolone群にみられた再発例の70%が致死的な遠隔転移であることもわかった。投薬によるリスク増大が極めて深刻であったことから、この研究は6カ月早く中止された。
この知見は英医学誌「Lancet Oncology(腫瘍学)」2月号に掲載された。筆頭著者であるオランダ、VU大学メディカルセンター(アムステルダム)のPeter Kenemans教授は「この薬剤は、過去あるいは現在の乳癌患者、乳癌が疑われる女性には処方されるべきではないことを示している」と述べている。
研究グループは、今回の研究では、乳癌の危険因子(リスクファクター)に関する評価や原発性腫瘍の詳細な分析が実施されておらず、いくつかの限界があったと述べている。また、将来乳癌を発症する集団のプロファイルは、今回の被験者とは異なる可能性があるとも指摘している。タモキシフェンを使用する人は今ほど多くないかもしれず、患者は全身術後補助(アジュバント)療法を受けているかもしれない。それでも「乳癌の既往があり、術後補助療法の必要がないか終了した女性について、tiboloneの安全性を確立する十分なデータがない」との結論に達したという。
昨年(2008年)夏に発表された米国の研究では、更年期症状の緩和のためにtiboloneを使用する60歳以上の女性が脳卒中を起こすリスクが、プラセボ群の2.2倍であることが判明し、研究が早期に中止されたことが米医学誌「New England Journal of Medicine」に掲載された。しかし、この研究では同時に、tiboloneを使用する女性において乳癌および結腸(大腸)癌リスクの低下も認められていた。
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